Crascul-Ignission

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社会の違和感

またデマが拡散 │ イラン情勢でトイレットペーパー品薄の嘘。なぜ毎回デマに踊らされるのか

1973年の第1次オイルショックやコロナ禍において「トイレットペーパーがなくなる」というデマが広がりました。実際にトイレットペーパーの生産量が減ったという事実は存在しないにも関わらず、人々の買い占めにより店頭からトイレットペーパーがなくなりました。そして今回もまた、中東情勢の緊迫化に伴い、再びネット上で「オイルショックの再来」「トイレットペーパーがなくなる」といったデマや不安の声が聞かれるようになりました。これに対し、経済産業省や業界団体は異例の早さで「影響なし」と表明。一見すると当たり前の発表に見えますが、その裏には人々が抱える「バイアス」「トラウマ」「デマの増幅構造」が隠されています。なぜ私たちは、トイレットペーパーの国内自給率98%という事実を知りながら、同じ過ちを繰り返そうとするのでしょうか?その正体を詳しく解説します。

この記事でわかること
  • トイレットペーパー騒動が繰り返される歴史的・心理的背景
  • 「石油不足=紙不足」という誤解が生まれる科学的・構造的理由
  • パニックを意図的・無意識的に煽っている勢力の正体
  • SNS時代にデマが拡散される「流言の方程式」のメカニズム

なぜ今、トイレットペーパーが話題なのか

2026年に入り、イラン情勢が緊迫の度を増しています。ホルムズ海峡の封鎖懸念や原油価格の高騰が報じられる中、SNSの一部では「またトイレットペーパーが店頭から消える」という投稿が拡散されました。これを受けて、経済産業省は即座に「供給に問題はない」と異例の呼びかけを行いました。

ネット上に渦巻く不安の声
  • 「オイルショックの時は紙が消えた。今回も予備を買っておくべき?」
  • 「ガソリン代が上がれば、物流が止まって店に届かなくなるのでは?」
  • 「近所のスーパーで棚が空になっていた。やはり買い占めが始まっているのかも……」

こうした不安に対し、業界団体である日本家庭紙工業会はメディアに対し、「いたずらに消費者を混乱させないでほしい」と強い口調でクギを刺しました。彼らがここまで敏感になるのは、過去に何度も「デマ」によって物流を破壊されてきた苦い経験があるからです。

歴史が証明する「生産停止」の嘘

私たちがまず知っておくべきは、過去のどの危機においても、トイレットペーパーの生産能力自体が失われたことは一度もないという事実です。

1973年オイルショックの真実

「石油がなくなると紙が作れなくなる」という神話はここで生まれました。しかし、実際には石油価格の上昇が紙の生産を止める直接的な原因にはなりませんでした。政府は製紙工場をエネルギー供給の優先対象としており、在庫も十分にありました。パニックの引き金は、あるスーパーの特売に並んだ行列を、メディアが「紙不足に備える人々」と誤報したことでした。

2020年コロナ禍のデマ

「原料を中国に依存しているから輸入が止まる」というデマがSNSを駆け巡りました。しかし、日本のトイレットペーパー事情は以下の通りです。

日本のトイレットペーパー自給率:約98%
主な原料は北米・南米・国内のパルプ、および国内の古紙です。中国への依存度は極めて低く、生産ラインが止まる物理的な理由は存在しませんでした。

それでも棚が空になったのは、「1人が1パック余分に買う」という行動が数千万単位で起きたため、トラックの輸送能力(物流)がパンクしたからに他なりません。

誰がパニックを煽っているのか:情報の受益者たち

特定の黒幕がいるわけではありませんが、社会の不安から「利益」を得てしまう構造が存在します。

  • 1 視聴率・PV至上主義のメディア 「トイレットペーパーは大丈夫」と報じつつ、映像では「空になった棚」を繰り返し映します。この視覚情報が不安を再点火させる「マッチポンプ」となっています。
  • 2 承認欲求を求める発信者 SNSで「現場の悲惨な状況」として空の棚をアップするインフルエンサー。彼らにとって、正確性よりも「バズること」が正義になってしまいます。
  • 3 利益を狙う転売ヤー 意図的に品薄感を煽り、メルカリ等で高額転売を行う層です。彼らにとって、社会不安は稼ぎ時という極めて不健全な構造があります。
  • 4 過度な防衛本能 「自分だけは損をしたくない」という一般消費者の心理が、結果として最大の「煽り手」となり、連鎖的な買いだめを引き起こします。
  • デマが広まるメカニズム:心理学的な視点

    なぜ、数値的な根拠(自給率98%など)を示されても、私たちはデマに踊らされるのでしょうか?そこには心理学的な「流言の方程式」が働いています。

    専門知識:オールポートとポストマンの方程式
    流言の強さ(R)は、対象の重要性(i)と内容の曖昧さ(a)の掛け算で決まるとされています。
    R ≒ i × a
    「生活に必須(重要性高)」かつ「情勢が不透明(曖昧さ高)」な時、デマは爆発的なエネルギーを持ちます。

    情報の変容プロセス

    情報は伝言ゲームのように伝わる過程で、以下の3つの変化を遂げます。これが「正しい情報」を「過激なデマ」へと作り変えてしまいます。

    • 平均化:細かい背景や「条件付きの安心」が削ぎ落とされ、短いセンテンスになる。
    • 強調:「石油」「停止」「消える」といった衝撃的な単語だけがクローズアップされる。
    • 同化:「昭和のオイルショック」のような過去のトラウマに結びつけて解釈される。

    賢い消費者として「情報の暴走」を止めるために

    私たちは、情報の波に飲み込まれないためにどう振る舞うべきでしょうか。

    1
    「映像」ではなく「数字」を見る
    ニュースで流れる「空の棚」は、その店、その瞬間の切り取りに過ぎません。国内生産量や自給率といった公的な統計データに目を向ける習慣をつけましょう。
    2
    「善意の拡散」を一度止める
    「みんなに注意喚起しなきゃ」という善意が、実はデマの拡声器になっていることがあります。不確かな情報は、自分のところで止める勇気を持ちましょう。
    3
    感情を揺さぶる投稿を疑う
    「緊急告知」「拡散希望」「衝撃の事実」といった言葉が並ぶ投稿は、あなたの理性をバイパスして感情を攻撃しています。一呼吸置いてから、その情報の出所を確認してください。
    事実は退屈ですが、扇動は刺激的です。私たちが冷静さを取り戻すことこそが、最も効果的な「品切れ対策」になります。

    経済産業省が「影響なし」とわざわざ発表しなければならない現状は、ある意味で私たちの「情報リテラシー」が試されている証拠でもあります。次に店頭で「お一人様1点限り」の文字を見た時、この背景を思い出してみてください。

    この記事が、皆さんの日々の生活と、情報の見極めのお役に立てれば幸いです。もしこの記事が参考になったら、SNS等で冷静な視点として共有していただけると嬉しいです。

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