日本の優れた製品を世界へ届ける挑戦の中で、多くの企業が陥る「ある共通の壁」があります。 それは、「現地に代理店をつくり、店舗の棚に商品を並べたのに、なぜか売上が伸びていかない」という現象です。 海外展開において、商品を現地の棚に置くことは非常に重要な第一歩です。しかし、そこから先にある「市場をつくる」という作業は、本来まったく別の仕事です。 本記事では、すでに海外(イタリア)に販売網を持ちながらも思うような成果が出ていない日本メーカーに向けて、「販路開拓」と「市場創出」の決定的な違いと、それを事業成果へ結びつける構造について解説します。

1. 「商品を置くこと」と「市場をつくること」は違う

「うちはすでにイタリア進出済みです」と考える企業の多くが、実態として以下のプロセスにおいて①〜③の段階で止まっています。

① 商品をイタリアへ輸出できる
② 現地代理店がある
③ 販売店がある(棚に並んでいる)
④ 商品が認知されている
⑤ 商品価値が理解されている
⑥ 指名買いが生まれている
⑦ 顧客から顧客へ広がっている
⑧ 継続的に売上が伸びている

①〜③は「商品の流通網をつくる仕事」です。一方で、④〜⑧は「商品の需要をつくる仕事」です。 現地の販売店や代理店は、商品を仕入れ、在庫し、店頭で販売する機能を持っています。しかし彼らは、自らリスクを負って日本製品の文化的価値を翻訳し、新たな需要や認知を一から創出してくれるわけではありません。 どれだけ素晴らしい技術や品質があっても、「なぜこの商品を選ぶべきなのか」という理由が現地市場で定義されていなければ、商品は棚の上で静かに止まったままになります。

2. 流通を増やすのではなく、「需要」を流し込む

売上を伸ばそうとするとき、多くの企業は「販売店を10店舗から30店舗へ増やそう」と考えます。 しかし、10店舗で年間100個しか売れていない商品を、無理に30店舗へ広げたところで、販売数量が300個になるとは限りません。なぜなら、商品そのものの「買いたい人(需要)」が増えていないからです。

市場を育てるために必要な順番は、以下の通りです。

「買いたい理由」と「最初の顧客層」をつくる
↓
その生まれた需要を、既存の販売網へ流し込む
↓
既存店舗での販売効率(回転率)が上がる

私たちの役割は、新しい販売店を片っ端から増やすことではありません。「商品の流通網を作る」のではなく、「商品の需要を作る」こと。 すでに現地に存在する販売チャネルを活かし、そこに強い需要を流し込むことで、既存の販売網を真の売上へと変えていくのが「市場創出」のアプローチです。

3. 市場創出を実現する「5つのステップ」

抽象的な言葉になりがちな「市場創出」ですが、具体的で再現性のある5つのフェーズへと分解して進行します。

01|市場を理解する(DISCOVER)

現地の市場構造、競合、顧客の生活習慣や文化、既存の購買行動を深く調べます。単なる統計データではなく、「現地でどう使われるか」という文脈を理解します。

02|市場機会を定義する(DESIGN)

「誰に、どんな価値として、何を提供すれば市場になり得るのか」を明確にします。日本での価値提案をそのまま持ち込むのではなく、現地市場に合わせた言葉と文脈へ翻訳します。

03|市場の核をつくる(PLAN / EXECUTE)

最も可能性の高い顧客、現地専門家、企業、コミュニティとの最初の接点を作ります。実際の使用・評価・購買を生み、確固たる「初期評価(コアなファン)」を確立します。

04|市場を広げる(DEVELOP)

獲得した最初の評価や実績を起点に、情報発信、紹介、パートナーシップを拡張し、需要を一般層へと伝播させていきます。

05|市場を事業化する(DEVELOP)

生まれた需要を持続的な売上へ変えるため、既存の販売チャネルや営業体制、継続的な獲得プロセスを最適化し、事業としての再現性を整えます。

まとめ:イタリアにある既存の販売網を、本物の市場に変える

「イタリアに商品は置いてある。代理店もある。しかし、思うように売上が伸びていない。」 もし自社製品がこの状況にあるならば、それは失敗ではなく、「販路開拓(流通)」から「市場創出(需要)」へとフェーズを切り替えるべきシグナルです。

イタリアの棚に商品を並べるだけで終わらせず、現地の人々に愛され、指名買いされ、継続して選ばれ続ける「市場」をともにつくっていくこと。それこそが、日本の優れたモノづくりが世界で真の事業成果を上げるための鍵となります。